猫の世界と私
きっと、だから今はいないのかもしれない。



「猫がいつも側にいたの。私には、自分自身の記憶があまりなくて…」

「え?記憶がない?」

「うん。私は何度もこの世界を体験してるの。そして、その度に記憶がなくなっていく。残っている記憶は自分の名前と大切な人のこと」

「大切な人?」

「そう、大切な人。その人が私のことを“結愛”って呼んでた記憶だけはあったから、自分の名前を忘れることがなかったの」

「そうなんだ…」

「でもね、その人のこと、今忘れそうなの。だから、忘れないために、今色々なところに行ってるの。そして、出来事を思い出してる」

「そう…忘れないため…」

「うん、忘れないため」

「…私も行きたい」

「未来?」

「私も彼がいたの。彼と過ごした場所に行きたい…ちゃんと胸の中に仕舞っておきたいの…」

「じゃ、一緒に行こうか?」

「え、でも…」

「いいよ。もしかしたら同じ方向だったりするかもしれないし」

「…いいの?」

「いいよ」
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