猫の世界と私

「結愛は、この教室の中で一番記憶に残っている場所ってどこ？」

「え？」

「一番記憶に残っている場所だよ」

「………」



突然の質問に首を傾げながらも、結愛は教室の中を見渡す。
教室と廊下の出入り口である扉、廊下が見える窓、少し古さを感じさせる掃除道具入れ、いつも授業中に見ている黒板、綺麗に並んでいるようで少しズレている机たち。
そして、カーテンをはためかせ、綺麗に輝く夕日が見える外側の窓際。


結愛の視線は、その窓際で止まった。


呼吸がゆっくりと深くなっていく。
何かを忘れている。

結愛は懸命に記憶を辿る。
けれど、本当に何も思い出せない。

ぽっかりと空いたように、何も思い出すことは出来なかった。