°°ワガママの果て°°
「ただいまぁ」



1時間残業をして18時30分。
今日も真っ直ぐに帰宅した。




「園夏お帰りなさい!
今日はちょっと遅かったじゃない…
お母さん心配したのよ…
メールも返信ないし…」



「お母さん!
お願いだから少し遅くなったくらいで心配しないで!
残業だってわかるでしょ?
もう社会人なんだから…
子ども扱いしないでよ!」




相変わらずな母に呆れるわたしは
ひどくキツイ口調になった。



「そんな言い方しなくてもいいじゃないの……心配なのよ。
お願いだから…安心させて…」




”安心させて”

母の口癖。
小さい頃から何百回…何千回聞かされたことか…



「わかった…わかったから。
今日は病院行ってきたの?」





持病があり体の弱い母は
入退院を繰り返したり寝込んだり…
とにかく体調の良い日が少なかった。



会社を経営する厳格な父と結婚した母は、社長の奥様としての品格を…
イメージを…大切にしていた。
黒い部分など一切見せず
”幸せは演じるもの”と呪文の様に唱えている。



病気も隠し、
いつも笑顔で幸せな夫婦。
仲良しな夫婦に見せていた。



父は仕事などで
滅多に家にいることはなく
母は日々寂しい思いをしていたはずなのに…世間には一切そう見せなかった。






1度だけ母に質問した事があった。


「どうしてお父さんと結婚したの?」
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