°°ワガママの果て°°
ガチャッ



ノックも無しに躊躇なく開けられたドアの前にフラつきながら立っていたのはやっぱり親父だった。




「悟~!これ全部頼む~」



手には大量の請求書の紙が握られていてパラパラと床に落ちていく。




「ちょっと…使いすぎちまった…かなぁ~」



ろれつが回らないくらいに酔っ払っている親父に俺は一度息をのみ率直に告げた。




「来月この家出てく事にしたから…」





「お~どこにでも行け~!金だけは払えよ~」




そう言って俺の部屋を出て行く親父の背中を見つめる事は出来なかった。




”どこにでも行け~”
流されるように言われた声が頭の中をループした。







わかっていた…子どもの頃からそうだった…

必要とされていない感覚。
どこに行くのかも、何をしに行くのかも、理由も…何も聞かれないんだ…






荷造りを中断して目を閉じた。
闇の中に堕ち眠りにつく。






翌日、朝起きると街は雪景色に包まれていた。

やっぱり雪を見ると思い出す。
それでもアイツにさよならなんて告げずに俺はあと6日後にこの街を出る。

< 85 / 160 >

この作品をシェア

pagetop