「異世界ファンタジーで15+1のお題」四




「あの~…」

牢の手前の扉から、ライアンはおずおずと声をかけた。



「どなたかいらっしゃいませんか?」

誰も出て来なかったことに、ライアンは不安な気持ちを感じながら、先程より大きな声で再び声をかけた。
今度は、はっきりとした足音と鍵を開ける音が聞こえ、そのことにライアンは安堵と緊張を同時に覚えた。



「誰だ、こんな遅くに…!」

体格の良い男は眠っていたのか、はねて乱れた髪の毛をかきながら、不機嫌な声で尋ねた。



「あの…兵士様から差し入れを持っていくように言いつかりまして…」

汚れた前掛けをつけたライアンは、酒の瓶を大事そうに男の前に差し出した。



「酒の差し入れだ?
なぜ、その兵士が来ない?
それに、勤務中の酒は禁止されている…おかしいじゃないか。
その男の名はなんという?」

男は質問しながら、鋭い視線でライアンを上から下まで品定めをするように眺めすかす。



「そう申されましても…
僕が、掃除をしている時にその兵士様が通られまして、そこで誰かに声をかけられておいででした。
そしたら、その兵士様が僕に近寄ってこられて、これを地下牢の仲間にこっそりもって行ってやってくれと…
酒を僕に押し付けるようにして、その方は声をかけて来られた方と一緒に去って行かれたのです。
ご不審でしたら、兵士様に話してそちらからお渡ししていただきます。」

そう言って、ライアンは素っ気無く身体を反転させた。



「ま…まて…
もしかしたら、友人が気を利かせてくれたのかもしれん。
疑ってすまなかったな。」

男は、酒好きだったのか、小柄でどこから見ても腕が立つようには見えないライアンに気を許したのか、扉の鍵をかちゃりと回した。



「忘れ物だぞ!」

そこへライアンと同じような恰好をしたケネスがバスケットを持って駆け付けた。
男は、ケネスのことをライアンの仲間と感じたようで特に大きな反応はしなかった。
扉が開かれると、ライアンとケネスは同時に男に酒の瓶とバスケットを押し付けた。




「うっ…き…貴様…」

次の瞬間、男の手から酒の瓶とバスケットが落ち、瓶の割れる乾いた音が牢の中に響き渡った。
男は顔をしかめ、片手で血の吹き出る脇腹を押さえ、今にも掴みかからん様子でケネスを睨み付ける。
< 52 / 91 >

この作品をシェア

pagetop