「異世界ファンタジーで15+1のお題」四
「陛下、この鍵は…?」

「……こっちだ。」

ラーシェルは、ライアンの質問には答えないまま歩き出し、食料庫の奥の壁の前に置かれた樽を退け、その壁の一部を押した。
すると、かちゃりという軽い音と共に壁が回転し、その奥に薄暗い通路が続くのが男達の目に映った。
隠し部屋への通路と同じく、やはり両脇の壁にはぼんやりと光る石が埋めこまれており、その光りの列は先程の通路より遥かに長いように見え、男達は思わず驚きのため息を漏らした。



「ここをずっと進んで行くと、城の外の水車小屋に出る。
昔から使われていないとても古い水車小屋だ。」

「それなら知っています!
新しいのに建て替えられてからもずっとそのままになっているあの水車小屋ですね…
子供の頃から、あそこは危険だから近付いてはいけないと言われていました。」

その言葉にラーシェルは深く頷く。




「そうだ。
この通路はあの水車小屋まで続いている。
私が生まれるよりもずっと昔に掘られた秘密の抜け道だ。
おそらく、いまだ一度も使われたことはないと思う。
私もこの隠し部屋を教えられた時、途中まで行ってみたことがあるだけだ。
あのあたりには普段人気はない筈だが、くれぐれも気を付けるのだぞ。
それと、戻って来る時には、ここ…この出っ張りを押してから回転させるんだ。」

ラーシェルはそう言いながら、ライアンに壁の突起を教えた。
それは、目を凝らしてよく見なければ、モザイクの模様に紛れてわかり辛い構造になっている。



「わかりました。
ですが、陛下、これは僕には必要ありません。」

ライアンは、鍵をラーシェルの手に返した。



「……必要…ない?」

「陛下、お忘れですか?
この者が牢を開けたことを…
彼は、優秀な錠前師なんです。
ライアン、シスター・シャーリーには陛下の無事とロジャーを連れて先に遠くへ逃げるように伝えてくれ。
頼んだぞ。」

「はいっ!
では、行ってまいります!」

ライアンは、ラーシェルに向かって恭しく頭を下げると、そのまま薄暗い通路の中を駆け出した。
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