「異世界ファンタジーで15+1のお題」四




「急げ、急げ!!」

庭に荷車を停め、セス達は絨毯を広間に運び込んだ。
高級な絨毯はずしりと重い。
人並みの体力はあるとはいえ、一度運んだだけで痛くなった腰を労わる間もなく、さらにまた次の絨毯を取りに戻る。
セスと若い二人の男性が中心となって絨毯を運び込む。
広間は絨毯の敷き替えが済むまで、他の準備が出来ない。
そのため、ほんの僅かな時間も休むことは許されない。
他の者達は柄合わせを考えながら、運ばれた絨毯をきっちりと床に敷き詰めて行く。
全部の絨毯が広間に運び込まれると、セスは広間の外に膝を着いた。
セスの腰や腕は悲鳴をあげ、もう立つことさえ出来なかった。



「後は俺達がやるから、あんたは少し休んでなよ。」

絨毯を一緒に運んでいた若い男がセスに声をかけた。



「ありがとう…そうさせてもらうよ。」

悪いとは思いながらも、セスには意地を張って手伝うだけの気力も体力ももう残ってはいなかった。



「なんだ?腰を傷めたのか?」

腰をさするセスに声をかけてきたのは、セスと同じくらいの若い男だった。



「あぁ…絨毯の重みはすごいもんだからな。」

「あんた、絨毯屋の人なのか。
……大変だったなぁ…」

「大変って?」

「聞いてないのか?」

「俺は人手が足りないってことで急に手伝うことになって連れて来られたから、詳しいことは知らないんだ。」

男の表情が怪訝なものに変わったのに気付き、セスは慌てて弁解する。



「そうだったのか。
実は昨日には絨毯はすでに張り替えられてたんだ。
だが、それを見た大臣が急に違うものに変更するって言い出したらしいんだ。
絨毯屋の親方は怒って断ったが、張り替えてもらえなかったらきっと殺されるって側近が泣きついたそうで、それでこんなことになったらしいんだ。」

「……あの大臣ならやりかねないな。」

セスの言葉に、男は人差し指を立て口許にそれを添えた。



「大臣の手下に聞かれたらどうするつもりだ。」

「す、すまない…」

城の中での大臣の脅威は、想像していたよりも大きい物だったことをセスは知った。



「それにしても、あんた、すごい汗だな。
そこの中庭でちょっと涼んできたらどうだ?
だが、くれぐれも遠くへは行くなよ。
勝手に城の中を歩き回ったりしてたら、どういうことになるかわからないからな。」

「そうだな…」

セスは痛む腰を伸ばし、中庭に向かった。
涼やかな風が心地良く、爽快な気分を満喫するセスの目にある人物の姿が映った。
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