「異世界ファンタジーで15+1のお題」四




「なんだ…そんなことだったのか!」

大臣は、シスター・シャーリーの話す報告に、少しも疑いを持つことはなかった。



「ええ…元々、メアリー様は信仰心の厚い方らしく、大火にならなかったことへの感謝とこんな災難がもう二度と起こらないようにと、このところメアリー様は毎日聖堂で祈られていたそうですよ。」

「そうか…それで……」

「え…?」

「……いや、なんでもない。
だから、あの女はおまえのことも気に入ったのだな。
おまえが、実は穢れた修道女だということは知らずに……」

そういうと、大臣はいやらしい眼差しでシスター・シャーリーをみつめ、皮肉な笑みを浮かべた。
腰に回された大臣の手の感触がいつもよりずっとおぞましいものに感じられ、シスター・シャーリーは込み上げる吐き気と恐怖に身体を震わせる。



「……どうした?
震えて……」

その時、けたたましい足跡に続き、激しく扉を叩く音が部屋に響いた。



「何事だ!騒々しい!」

不機嫌に声を荒げ立ち上がった大臣に、血相を変えて飛びこんで来た男の口から、国王が逃亡したとの報告がなされた。



「な…なんだと!
ラーシェルが逃げた!?
どういうことだ!見張りは何をしていた!詳しく説明しろ!」

「そ…それが…
見張りの者達は二名とも殺され…何が起こったのか、皆目わからないのです。」

襟元を締め上げられた男は、恐怖にひきつった顔で懸命に報告を続ける。



「誰か、不審な者を見た者はいないのか!」

「それが…あいにくとあの牢は離れた場所にありますゆえ、誰も…」

大臣は、舌を打って両手を緩め、その反動で男は床に倒れ込む。
そんなことにも少しも気遣わず、大臣は肩を怒らせ、部屋を後にした。



「大丈夫ですか?」

シスター・シャーリーは倒れた男に手を差し伸べた。



「ありがとうございます、シスター・シャーリー。
あの……今の話はどうぞご内密に…」

「もちろんです。
それより、あなたも早く大臣の後を追った方が良いのではありませんか?」

「そ、そうですね!
失礼します!」

男は立ち上がり、慌てて部屋を飛び出し、シスター・シャーリーも男に続き、忌まわしいその部屋を出て行った。
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