シャボンの中の天使
洗濯物を干しながら、わたしは、深く息を吸い込んだ。
暖かな空気に、春の息吹を感じた。
「あ、水筒にお茶も入れなくちゃ」
そう呟いて、ベランダから中へ入ろうとしたときだ。
小走りをする人影が、わたしの家の前で止まった。
見覚えのあるその顔に、わたしは、ベランダから身を乗り出す。
「朝ちゃん。朝ちゃん!」
わたしの名を呼ぶそのひとは、近所に住む子供好きのおじいさん。
葉菜をとっても、可愛がってくれている方だった。
「どうしました?佐藤さん」
70才が近いと、このあいだ話していた佐藤さんは、息を切らしながら、わたしを見上げた。
「朝ちゃん。大変だ!早く来なさい」
「?」
「あんたのとこの旦那さんと、葉菜ちゃんが今そこで……」
佐藤さんは、深く息を吸ったあと、荒い息とともに、言葉を吐いた。
━━━今そこで、事故にあったんだ……。
あなたはそんなことを突然言われて、
すぐに信じることができますか?