シャボンの中の天使
気がつけばわたしは、わたしの父と、夫の母に支えられ、家に帰ってきていた。
なにが起こったのかわからなかった。
手にはただ、葉菜が落としたピンクの鞄を持っていた。
外は腹立つほど、雲ひとつない紺碧の空と冴え渡る月。
「朝子。これは……」
父が台所に立って、何か言っている。
「なに……?」
そこには、大きなお弁当箱があって、結局、一度も手をつけられていない三角おにぎりやタコさんウインナーや卵焼きや、唐揚げがこじんまりと、申し訳なさそうに、座っていた。
「………」
わたしは、黙って、そのおにぎりに手を伸ばした。
「おい、朝子!」
「朝子さん!?」
包まれたラップを剥がして、おにぎりを口一杯に頬張った。
頬張りすぎて、盛大にむせた。
ゴホッゴホッと咳き込むわたしに、義母は慌てて、背中を擦った。
父は、近くにあったガラスのコップに、水を入れて、差し出してくれた。
わたしは有り難くそれをいただき、おにぎりを水と一緒に飲み込んだ。
「大丈夫か?朝子」
「大丈夫?」
「………」
声を出す力など、どこにもなかった。