イージーラブじゃ愛せない
「なに急に?離れてってどう云う事?」
「もうすぐ始まるじゃん、研修。それ終わったら、早ければ来年の今頃には辞令が出るかもじゃん」
「ああ、そーいう事ね」
再び硬く抱きしめても、胡桃は今度は嫌がらない。ちゃんと俺の不安を受けとめてくれてるみたいに。
「俺さ、ぶっちゃけ不安なの。胡桃のこと大好きだけど、離れちゃったらどうなるのかなあ、って。遠距離恋愛とか嫌だよマジで。俺、寂しがりやだからどうなるか分かんないもん」
あー情けない。でも本当に不安でしょーがないんだよ。遠距離恋愛とかしてさ、きっと俺は会えない胡桃の事思ってやきもきするよ。側にいない分、今より間違いなく嫉妬深くなる。そんでケンカもしちゃうかもしんないし。
束縛するウザい彼氏になるかもしんない。毎週会いに行って貯金なくなっちゃうかもしんない。寂しくて衝動的に『どっちか会社辞めて一緒に暮らそう』とか馬鹿なこと言っちゃうかもしんない。
ダメだ。なんか全然明るい未来が考えられない。
改めて優吾とりんりんはすげーよ。なんで『自信ある』なんて言い切れるんだろ。俺にはホント無理。
そんな風に実に情けない本音をぶっちゃけた俺は胡桃の返事を縋る気持ちで待った。同じ不安を共有してくれるのか、それとも笑い飛ばして励ましてくれるのか。けれど。
「…………」
胸に抱きしめた胡桃からは、なんの言葉も返っては来なかった。