イージーラブじゃ愛せない
お客様の家へアフターサービスに向かう社用車の中。成瀬先輩が運転する車の助手席で、私はもう1度契約書を確認する。
「そうだ、思い出した。ベッドカバーとおそろいの生地を使ったバルーンシェードのオーダーでした。……でもこれ、お客さんが自分で窓の寸法を測って来たはず……」
「向こうはお前が聞き違えたってさ」
「……そうですか」
これも、まあ、家具屋にはわりとある話。自分でサイズを測ってから購入しにくるお客さんは多いけれど、いざ品物が届いてみると合ってなかった、って。
計り間違えたのか、商品の大きさを認識違えたのか、あるいは言い間違い、聞き違い。
そして、結局その責任の所在は分からない事が多い。言った言わないの水掛け論になっても仕方ないし、お客さんを問い詰める訳にもいかないし。
なので、責任がどちらにあるか分からなければ頭を下げるのは当然お店側。この時ばかりは『お客様は神様です』の心意気が染みすぎてる日本のサービス業を恨むわ。
どちらにしろ、これから私は頭をいっぱい下げなくてはならない。お客さんにゴメンナサイして、オーダー業者にもゴメンナサイ。仕事の一環だとは言え、あー胃が痛い。
「すみません。成瀬先輩にも手間取らせちゃって」
とりあえず私は最初のゴメンナサイを運転席の成瀬先輩に掛ける。
アフターサービスはリーダーと担当者で行くのが普通だけど、今日はうちのリーダーが休みなので副リーダー的ポジションの成瀬先輩が付き添ってくれている。
相変わらず女の人みたいなしなやかな指でハンドルを握りながら、成瀬先輩は
「仕事だ。気にするな」
前を向いたまま優しくも冷たくも無い声で答えた。