イージーラブじゃ愛せない
朝、苦々しい顔をして事務室を出て行った私を心配してくれていたんだろう。ジョージは周囲に人がいない事を確認してから撫でるように私の髪を指で梳いた。
近くなった距離で、ジョージのワイシャツ越しの胸板が目に映る。
「胡桃?」
ゆっくりそこに手の平を当ててみると、布地の感触の後に体温をほのかに感じた。
……うっすい胸板だなあ。私よりよく食べるくせに、なんでコイツこんなに体脂肪少ないんだろ。腹立つ。
やっぱ。
こんなペラい胸なんかで泣くのは嫌だ。
当てていた手を握りしめて、軽くジョージの胸をトンと叩いた。
「別に。大丈夫。ちょっと面倒くさかったけど、もう粗方片付いたし」
口角をクッと上げて笑って見せると、ジョージはどこか安心したように目を細めて
「お疲れさん」
と、労うように私の頭をポンポンと撫でた。なんだこれ、偉そうに。
「夜、気晴らしに飲み行く?優吾達も誘ってもいいし」
「昨日もみんなでご飯行ったばっかじゃん。やめよ。今日はみんな休肝日」
「年寄りくさー」
笑って言ってからジョージはポケットのスマホで時間を確認して
「やべ、休憩終わる。またね。帰り時間合ったら一緒に帰ろ」
ニコニコと手を振ると、そのまま階段を駆け下りて行ってしまった。
その後姿に小さく手を振って考える。
さて。今日の疲れは独りでどうやって癒そうかな、って。