イージーラブじゃ愛せない



夏バテのせいだろうか。それともバテてあまり食事を摂ってないせいだろうか。なんか最近、あんまし頭もまわってない気がする。

バテた身体も頭もかったるい。だから今は何も面倒な事は考えたくないと思ってるのに。


「胡桃。お話があるの」


帰宅した私を珍しく呼び止めた母の声からは、えらく面倒そうな匂いがぷんぷんした。



私を和室に座らせ堅っ苦しく喋り出した母の話は、要約すると『うちから出て行け』と云うものだった。


なんて事は無い。来年の兄と涼子さんの結婚式に合わせて家を二世帯住宅に建て替えるんだって。どうやら私の知らない所でそんな話が着々と進んでたらしい。

つまりまあ、私の“帰る場所”はなくなるワケだ。


「へー。今時、新婚時から二世帯同居でもいいだなんて、涼子さんて本当いい人だね」

「でしょう?だからね、涼子さんの気が変わらないうちにさっさと進めましょうと思ってね。工務店の方が9月から着工出来るって言うから」


どうやら私のタイムリミットはあと2ヶ月らしい。

25年も住んできたのに、感慨に浸る間もないや。なんてあっけない生家との別れ。


「分かった。それまでに住む所みつけて出て行くから」

「お願いね」


けれど、兄夫婦との二世帯同居を心待ちにしている母には、娘の独り立ちなど特に気に留める事柄ではないようだった。

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