イージーラブじゃ愛せない
翌日の昼休み。
3分の1も手を付けてないざる蕎麦のトレーを脇に退けて、私は虚ろな眼差しで賃貸住宅の情報誌をパラパラと捲くった。
「もしかしたら1年経たずに転勤があるかも知れないのに、本当タイミング悪いわ」
「だったら柴木ちゃん、私んち住んじゃえば?私と相部屋で良ければだけど」
憂鬱な気分を晴らすように、りんがそんな嬉しい事を言ってくれる。可愛いヤツめ。それが現実的ではない事は分かってるけれど、咄嗟にそう言ってくれた気持ちが嬉しい。
今日は休憩時間が重ならなかった関係で、りんとふたりきりでの昼食。久々の女ふたりでのランチはやっぱ気楽で楽しい。
「あはは。それ楽しそうだけど、りんと相部屋じゃあなあ。着替えるたび『巨乳羨ましい~』って乳揉まれそう」
「もー!揉まないよー!」
ふざけた返答に、りんも頬を膨らませて可愛く怒ってみせる。けれど、すぐにシュンと淋しげな顔になり
「ゴメンね。私が独り暮らしだったら本当に『うちにおいで』って言ってあげられたのに」
なんて、感じなくていい責任をあらわにした。