イージーラブじゃ愛せない
「でも何でまたこんな時期に?もう1、2年で転勤かもしんないじゃん?」
「うっさいな。色々あんのよ」
話し掛けながらジョージは私の前に腰を降ろすと、チラと情報誌を覗き込んでから割り箸を割った。
日替わり定食のアジフライを口にしながら「どこら辺住むの?」だの「予算は?」だの、ジョージは鬱陶しく話しかけてくる。
「まだ探し始めたばっかだからそんなに決めてないよ。ぼちぼち考えていくつもり。あーメンドくさい」
「でも9月までに引っ越すんなら早い方がいいよ。俺、付き合ったげるから今度の休み一緒に不動産屋行こっか」
おせっかいだなあと思いつつ、けれども独り暮らしの経験がある人に付き添ってもらえるのはありがたいなと考え頷こうとしたところで。
「良かったら私、不動産屋紹介しますよ。親戚が船橋で賃貸の仲介やってるんです」
須藤さんがフォークにパスタを巻き付けながら、私に向かってニコリと微笑んだ。
「茜ちゃんマジで?良かったじゃん胡桃~、強力な助っ人が現れて!身内に不動産屋がいるってマジで頼れるよ?」
「私の叔父なの。昔から私のこと可愛がってくれてね。だからきっと、いい物件紹介してもらえると思う」
他人事なのにやけに喜んでいるジョージと、それを見て嬉しそうに目を細める須藤さん。
ははは、なんだか可笑しい。
だって当人である私はこれっぽっちも嬉しくも楽しくもないのに。
私を置いてけぼりにはしゃいでる2人を見ながら
「じゃあ、お願いしようかな」
接客業で培った根性で笑顔を向けて見せる。
私の隣ではりんがまたゴニャゴニャした表情をしていて
「……なんでウソでもいいから『俺んとこ来い』ぐらい言えないのさ、馬鹿ジョージ」
なんて、小声で呟いてるのが聞こえた。