イージーラブじゃ愛せない


やっぱ茜ちゃんに手伝ってもらって正解だったじゃん。優吾もりんりんもよけーな心配しすぎなんだよ。

そんな得意げな気持ちで微笑みながら、向かいの席に視線をやれば

「本当にいい所だね。紹介してくれてどうもありがとう」

胡桃もニコリと口角を上げて、書類を眺めながら頷いた。


「決めるなら早い方がいいですよね。叔父さんに言って、次の休みにでも契約の手続き進められますよ。あ……でも――」


ニコニコと話を進めていた茜ちゃんが、ふと何かに気付いたように言葉を止めて顔を上げる。そして、少しだけ真剣な表情をしてから

「その前に親御さんにも物件見てもらった方がいいですよね。柴木さん、独り暮らし初めてだし。きっとご両親も心配されてるでしょうから」

とても大人びた気遣いを胡桃に向かって紡いだ。

あーそれもそうだね。茜ちゃん気が利くなあ、なんて思わず感心する。けれど。


「うちはそういうの平気だから。放っといて」


茜ちゃんの親切に、胡桃はビックリするぐらい冷たい口調で突き放すように言い返した。


「あの……でも、保証人は親御さんですよね?だったら、やっぱり一度は見てもらった方が……」

「そんな事しなくても保証人の署名はちゃんと貰ってくるから。放っとけって言ってんの」


さらに強くなった胡桃の語調に、茜ちゃんの顔が戸惑いの色に染まる。それを見ていて、さすがに俺も口を挟まざるを得なかった。
< 142 / 245 >

この作品をシェア

pagetop