イージーラブじゃ愛せない
「なんで怒ってんの?ちゃんと言ってよ。俺にならそーいう不貞腐れた態度とっても構わないけど、茜ちゃんにそれは無いっしょ?」
走ってきた勢いとか、イラつくほど暑い気候のせいとか。色々あってか、俺も結構キツい口調になってしまった。
それを聞いた胡桃が一瞬何かを言い返そうとして、けれどグッと唇を噤む。
「なんで黙るの?言いたい事あるなら言ってってば」
ジリジリと射すような日差しがアスファルトの上で立ち尽くす俺達を容赦なく照らす。こんな所にいつまでも居たくないのに、胡桃は俺の問い掛けには何ひとつ答えず、ただじっと黙るだけだった。
「はー……」
大きく溜息を吐き出して俺は額の汗を拭うと、ただ立ち尽くす胡桃の髪を静かに撫でた。綺麗な黒髪は強い日差しのせいですっかり熱をもってしまっている。このままじゃ黒焦げになっちゃうよ。
「もう今日はいいよ。物件探しは止め。今からウチ行こ」
もう今日はムダだ。こうなっちゃったら胡桃は頑として折れないよ。少し時間を置いて落ち着くことが先決だと思った俺は、とりあえずウチへ行こうと胡桃の肩を抱いて歩き出す。
胡桃は俯いてしまったけれど、とりあえず一緒に足を動かし出してくれた。
けれど。
「茜ちゃんには俺から連絡しとくからさ、胡桃も後でもう1回謝んなよ。茜ちゃん傷付いてたよ?」
スマホを取り出しながら言った俺の言葉に、胡桃の足が再び止まってしまった。