イージーラブじゃ愛せない
下の階で家族と涼子さんが団欒をしてるのだと思うとどうにも落ち着かず、私はさっさと家から逃げて近場のカフェへと避難した。
途中で買った文庫本を読みながらアイスティーをちみちみ飲んで時間を潰す。すると、時計の針が12時を少し回った頃、スマホの着信音が鳴り響いた。
ジョージだったらウザいなと思ったけれど、画面には『西島りんか』の文字。重かった気分が一気に晴れるのが自分でも分かった。
「もしもし、りん?おはよー。今昼休み?」
『…………柴木ちゃん』
あらま。明るく電話に出たというのに、通話の向こうのりんは今にも泣き出しそうな声をしている。
そうか。そう言えばりんは昨日休みだったから。今日になってジョージから色々聞いたんだな、これは。
「どしたの、りん。なんかあった?」
どうして電話してきたかなんて、分かっちゃいるけど一応シラをきって尋ねてみる。けれど、まあ、返答は当たり前のものだった。
『なんかあった?じゃないよ。なんで……』
そこまで言って、りんの言葉は鼻をすする音と共に噤まれた。しばらくの無言。私もただ黙ってりんの言葉を待つ。そして数回の鼻を啜る音が途切れると
『今夜開いてる?ふたりで【もぎり】行こう。一緒に飲もう』
りんらしく無い、びしょびしょに湿っぽい声で飲みに誘われた。
「いいけど。湿っぽい話するならいかない」
『……分かった。しない』
心配してもらってるのに酷い条件を押し付けた私を、それでもいいとりんは受け入れてくれる。
ワガママな私はそんな友人の優しさに甘えて、夜8時に【もぎり】で会う約束を交わした。