イージーラブじゃ愛せない
「ごめん、茜ちゃん」
華奢な肩を掴んでゆっくりと身体を剥がした俺を、茜ちゃんは何とも言えない表情で見つめた。
うん。やっぱ可愛いな茜ちゃん。正直、すげー抱きたい。この子とのセックスがかなりいい事、俺知ってるし。しちゃったら楽しいだろうなって分かってる。
頭空っぽにして、気持ちいい事して、楽しい夜を過ごして。
また楽しいイージーラブをしたら、俺は失恋の痛みから立ち直れると思うよ。
けど。
「慰めてもらいたいのはやまやまなんだけどさ。でもやめとくね」
そう言い切ると、薄暗くて顔がよく見えない車内で茜ちゃんの表情が「どうして?」と言わんばかりに不満そうに変わっていった。
「本当にゴメン。でもさ、ここで誰かに慰めてもらっちゃったら俺、一生成長しないと思うんだよね」
眉尻を下げながらヘラリと微笑んで、俺は運転席のシートに深く座りなおした。バックミラーにチラリと映った自分の弱った顔。まだ失恋から全然立ち直れてない情けない男の顔。
その情けないチャラ男に向かって、俺は強く叱咤する。
「胡桃が俺をフッた理由、未だに分かんないんだけどさ。でも、今までテキトーな恋ばっかしてたバチが当たったのかなって思ってる。だからさ、今度ばかりは俺、逃げちゃダメなんだよね。ちゃんと傷と向き合って、もっともっと独りで考えないと。きっと、一生まともな恋なんか出来ない」
それってすんげーしんどいけどさ。でも、受けとめなくちゃダメなんだ。
本気で好きになった女の子を失った理由を。
きっと。気付かないうちに胡桃をたくさん傷付けていた自分の馬鹿を。