イージーラブじゃ愛せない
○空っぽバリュー○
○空っぽバリュー○
ひとり暮らしってやつがこんなに大変だとは知らなかった。
家を出て新しいマンションへ引っ越して1週間目。
「なんか、お風呂のお湯が熱くなんないんですけど」
「シンクと同時に使うとぬるくなるんだよ。片方ずつ使え」
大きなものから小さなものまで、私は何かトラブルがある毎に隣の成瀬先輩の元を訪れていた。
だって、ここを紹介してくれた時に『なんでも頼っていいぞ』って言ってくれたし。なのに。
「お前なあ。もうちょっと自力で頑張れよ。仕事の時はもっとしっかりしてるだろ」
なんて酷い言い草だ。そりゃ確かに電気の交換からベランダにいた蝉退治まで、ちょっといいように使いすぎたかなーとは思うけど。
「独り暮らし初心者ですから。それに頼れって言ったのは成瀬先輩じゃないですか」
不満を正直に口にすれば、返ってくるのは毎回同じ台詞。
「だったら、それ相応の礼ってもんがあるだろ」