イージーラブじゃ愛せない


1年半ぶりに会った親父は相変わらず威厳たっぷりだし、おふくろもそんな親父を支えるように相変わらず家事に勤しんでいる。

そういう両親の元気な姿を見るとやっぱりホッとする。変わらずに自分を迎えてくれる場所があるって幸せだなって。


なんとも満ち足りたあったかい気持ちになって、久々のおふくろの料理に舌鼓を打っていると、兄貴が俺のグラスにビールを継ぎ足してくれた。


「仕事はどう?上手くやってる?」

「まあまあかな~。やっと試験ひとつ受かったし、これからって所かな。兄貴こそ、仕事は順調だろうけど結婚とかどーなの?いい話ないの?」

「はは、あったら丈二に真っ先に知らせるよ」


兄貴も相変わらずだ。製薬会社の研究員として働く真面目で賢い兄貴。俺とは真逆のタイプで、それこそ最初に会った子供の頃はどう接していいか分かんなかったけど。年齢を重ねるに連れてどんどん仲良くなって、今では心から慕ってるよ。


「そう言う丈二はどうなの?もう26になるなら、考え始めてもいい頃じゃない?あなた、昔からガールフレンドには事欠かなかったんだから」


俺と兄貴の会話を聞いてたおふくろが、つまみの追加をテーブルに運びながらそんな事を問い掛ける。

参ったな~と苦笑いを浮かべつつ、頭に過るのはただひとり、初めて本気で好きになった女の子の顔。

イージーラブしか知らなかった俺だもん、結婚なんか考えた事もなかったけどさ。でも。

もしも胡桃と付き合い続けて、そういう話が出たとしたら……俺はなんて言っただろう。なんて情けない事を思ってしまった。


今さら考えたってしょーもない事だけどさ。


でも、結婚なんて重過ぎる現実。俺なんかに考える資格あんのかな。
 
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