イージーラブじゃ愛せない
なんのかんの近況を報告したり、昔話に花を咲かせちゃったりしながら、家族団らんの時間は過ぎていった。
気が付けば近所の寺から除夜の鐘を叩く音が聞こえてくる。
「懐かしー。そういえば子供の頃、親父と鐘突きに行ったっけ」
そんなノスタルジーに誘われて、俺は炬燵から立ち上がるとリビングの窓を開けて縁側へと出た。キンとした真冬の空気が酒で火照った顔を冷やしてくれて気持ちイイ。
「そういや昔はよく突きに行ったっけな」
腰掛けていた俺の後ろから、カラカラと窓を開けて親父も縁側へとやってきた。そうして俺の隣へドッカリと腰を降ろし遠くを見つめる。
「再婚したばっかりの頃、お前なかなか懐いてくれなくてなあ。とにかく一緒に色んな事やって楽しい思い出作ってやろうって必死だったよ」
突然話され始めたその話題はあまりにも意外すぎて、俺は親父の方を見たまま、ただ瞬きを繰り返す。
それに気付いた親父がこっちを向き、酒で赤らんだ顔をニッと破顔させると、節くれ立った手で俺の頭を乱暴に撫でた。
「一生懸命育てた甲斐があったよ。こんなデカくなって、一緒に酒飲みながら除夜の鐘を聞ける日が来るなんてな」
いきなりそんな話をされるなんて、俺は照れくさくなってどーしていいか分からなくなってしまう。
子ども扱いするようにグシャグシャと頭を撫でる手を交わしながら
「なんだよ親父、急に~。酔っ払ってんの?」
そう言うと、親父は嬉しそうな顔に野太い声で豪快に笑った。
「お前なかなか帰ってこねえんだから、たまにゃこう云う話くらいさせろ」
なんて言いながら。