イージーラブじゃ愛せない
「なかなか打ち解けないお前を見て、早まったかなって何度も焦ったもんだよ」
大声で笑ったあと、親父はさっきより静かな声で喋り出した。どこか懐かしそうに細める目は、真っ暗な庭の寒椿を眺めている。
親父とおふくろが再婚したのは俺が10歳の秋。前の親父――俺の血の繋がった父親――がうちから出て行って1年後のことだった。
あんなに家族を大切にしてた親父がいきなり家を出て帰らなくなって。それが、いわゆる『離婚』ってヤツで、もう自分の家族は二度と戻らないんだって子供ながらに理解し始めた頃、突然『再婚』って耳慣れない言葉を聞かされ、新しい家族が出来た。
ずっと変わらないと思ってた幸せが、たった1年で目まぐるしく変わり。子供だった俺が『新しい家族』を受け入れるまで時間を要したのも仕方ねー事だと思う。
「寂しかったよ、あん時は。前の親父はいきなりいなくなっちゃうし、おふくろは新しい親父に取られちゃったみたいだしで、寂しくてしょーがなかった」
懐かしい話で心が子供返りしちゃったのか、俺は膝を抱えると苦笑いを浮かべながら少し拗ねた口調で訴えた。
「ああ、分かってた。だからお前がもっと大きくなるまで早苗さんと入籍するのは待つべきかとも思った。けどなあ、惚れちまったもんはしょうがねえ。一秒でも早く、女手ひとつで頑張ってるお前の母さんを幸せにしてやりたいと思っちまったんだから仕方ねえ」
なんて豪快で勝手な言い草だよ。あまりにも親父らしく潔いその言葉に、俺は眉尻を下げて笑うしかなかった。