イージーラブじゃ愛せない
「胡桃!」
通勤途中の歩道で彼女の背中を見つけた俺は、一目散にダッシュする。
あれからライン送っても返事ないし電話も出てくれないしで、俺の繊細なハートはもう不安で張り裂けそう。
そうして数時間ぶりに顔を合わせた恋人は、振り返って俺を見るなり「でかい声で呼ぶな」と苦い表情を向けた。
「なんで黙って帰っちゃうワケ?」
「黙ってないよ、ちゃんとメモ残したでしょ」
「なんで電話もラインも無視するワケ?」
「朝の支度で忙しかったの。男と違って女の朝帰りって面倒くさいんだから」
うー。納得いかない。いくら照れ隠しとは言え、ちょっと冷たすぎね?
俺はすっかり拗ねてしまったというのに。胡桃ときたらこちらを振り返ると
「あとさ、胡桃って呼ばないでよ」
信じらんないくらいひっでぇ事を言ってのけた。ウソでしょ?
「私、自分の名前嫌いなんだよね。『クルミ』なんて可愛いガラじゃないし」
「可愛いよ。胡桃は可愛い」
「だからやめてっての」