イージーラブじゃ愛せない



「新店舗なんて期待されてるじゃん。栄転おめでとう」


福井への辞令の発表があった日の昼、社食で一緒になった胡桃はそう言って、どこか力なく笑った。


「まだ風間くんの居ない生活にも慣れてないのにね。ジョージまであと3ヶ月でいなくなっちゃうんだと思うと、さすがに寂しいかな」


トレーの日替わり定食をゆっくり口にしながら素直に『寂しい』と零した胡桃に、俺は密かに驚く。

……いや、別に驚く事じゃないよな。

胡桃だってやっぱり友達と離れていくのは寂しいんだ。ただ、今まで口に出さなかっただけで。

俺が頼りなくて、出させてあげられなかっただけで。


「寂しくないって、柴木ちゃん。ちょっと距離は空いちゃうけどさ、俺たち4人いつまでも友達だって約束したじゃん。夏休みとか、またみんなで遊びに行こ」


カレーを食べていた手を止めて微笑んで言えば、胡桃はちょっと目を丸くしてからどこか嬉しそうに笑った。


「あはは、ジョージの友情パワーは強いねー。そうだね、またみんなで遊びに行こうね」


そうして、ひとしきり笑った胡桃は再び食事を再開させようと手元の皿に視線を伏せたけど、俺は正面を向いたまま瞳を逸らさなかった。

それに気付いた胡桃が、再びこちらに視線を上げる。


「それにさ、離れてもやっぱり俺は柴木ちゃんが1番大切だから」


視線を逃がす暇を与えず、俺がハッキリと言い切ると胡桃の表情が一瞬だけ無防備に切なさを浮かべた。
 
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