イージーラブじゃ愛せない


「あんた、まだそんな事言ってんだ」


すぐに強がりな笑いを浮かべて視線を逸らせた胡桃は、手元のサラダに箸を運ぶ。いつもは最後までとっておく好物のトマトをさっさと食べてから

「やっぱトマト美味しい。ジョージ、あんたのもちょーだい」

なんて話題を変えるためにワガママな冗談を言ってきた。


「全部あげる。だから1個だけ俺の頼みも聞いて」


向かいの皿に自分のサラダからトマトを移しながら言うと、胡桃は強がりな笑いを顔から消した。


「今日、仕事終わったら少し時間ちょうだい」

「じゃあ、りんも誘って【もぎり】行こうよ」

「だめ。ふたりじゃなきゃダメだから」

「……めんどくさい」


胡桃は視線を逸らすとそのまま黙ってしまったけれど、俺は強引に約束を取り付ける。

だって。分かってるっしょ、胡桃だって。

これが俺たちの最後のチャンスだって。


「静かに話したいからウチでいい?時間取らせないから」


強引過ぎる約束に胡桃の表情が一瞬明らかに曇ったけれど

「最後のお願いだと思って聞いて」

ズルくも必死な懇願に、意地っ張りな胡桃も渋々ながらも頷いてくれた。
 

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