イージーラブじゃ愛せない



この日は、りんと揃ってシフト休を取った。昼の新幹線で発つジョージを見送ってあげるため。

けれど、正直私は困っていた。

りんはきっと言うだろう、『最後なんだから素直に気持ち伝えろ』って。

んなもん、出来るならとっくにしてるし、そもそもこんな土壇場で伝えてどーなるんだっての。


ここまで来たら最後まで『親友』として笑顔で見送りたい。

どうにもならない気持ちをぶっちゃけて気まずくなるより、また時々会ってみんなで笑ってご飯が食べられる。そんな関係のまま綺麗に別れた方がいいに決まってる。


そんな、なんともムニャムニャする気持ちを抱えたまま、りんとの待ち合わせに行こうと玄関を開けると。


「おはよ、柴木」


自分の部屋のドアに寄り掛かりながら腕を組んで立ってる成瀬先輩が声を掛けてきた。


「あれ、成瀬先輩も今日シフト休でしたっけ。てか、何やってるんですか?」


玄関の鍵を閉めながら言えば、成瀬先輩はツカツカとこちらにやって来て、まるで私の行く手を塞ぐように立ちはだかるではないか。


「……出かけたいんで、どいてくれませんか?」

「高倉のとこ?」

「はあ、まあ。見送りに行ってやろうかなって」

「じゃあ通さない」

「は?」


何言ってるんだこの人。意味不明な発言に不審な目を向けると、成瀬先輩はいきなり私の手首を掴んで引っ張り、強引に自分の部屋へと押し込めてしまった。
 
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