イージーラブじゃ愛せない
「……嬉しいワケないじゃん」
顔を俯かせ湯船に顎まで浸かった私の表情を、それでも尚りんの瞳は追い掛ける。
「柴木ちゃん、顔まっか」
「のぼせてきた。そろそろ上がるわ」
ザバッと勢い良く水滴を引き連れて立ち上がると、私は「えーもう上がるの?」と言うりんを置いてけぼりに、浴槽から出て行った。
……ジョージはイイ奴だよ。友達としては。
見ていて苦しくなるくらい友人には健気な姿と、イージーラブを繰り返すチャらい姿が頭の中で上手く噛み合わない。
そしてもうひとつ。
自分に執着の無い冷めた私と。大切な友達を失うことを恐がってる臆病な私も。上手く噛み合ってない。
りんより一足先に脱衣所から出ると、目の前の廊下のベンチにはジョージが座っていた。
「ちょっとその辺散歩しない?」
私に冷えたジュースを差し出してそう言うジョージのアッシュブラウンの髪からはまだ雫が垂れている。
「ちゃんと拭きなよ。風邪ひくよ」
手に持っていたタオルでヤツの髪をテキトーにワシャワシャと拭くと
「柴木ちゃんやさしー」
なんて、嬉しそうな声が返ってきた。
……優しいのはそっちじゃん。
髪、すごい冷たい。あんたいつからここで待ってたのよ。
あんまり健気なのはやめて欲しい。無邪気な子犬を見てるみたいで胸が痛くなるから。
「散歩行くならちゃんと髪乾かしておいでよ、待っててあげるから」
私はそう言ってタオルを押し付けると、ジョージの背中を叩いて脱衣所へと促した。