イージーラブじゃ愛せない
心地良いんだ、このやりとりが。俺の馬鹿にちゃんと付き合ってくれるこの掛け合いが。好きで好きでたまんないんだ。
本当にこの関係失いたくないよ。宝物みたいに思ってる。
だからさ。それを失う覚悟で俺がこれから伝えること、半端じゃないって分かってくんないかな。緊張して頭クラクラするくらい勇気出してるって、どうか伝わってくんないかな。
「あのさ、柴木ちゃん」
前を歩く背中に呼びかけたのと、風が紅い葉を揺らして冷たく吹き抜けて行ったのは、ほぼ同時だった。
「なに?」
振り向いた胡桃が寒そうに腕を両手でさする。それを見て俺は言いかけた言葉を一旦噤むと、自分の着ていたジャケットを脱ぎ手早く胡桃に掛けた。
「……いいよ。あんた寒いでしょ」
「いーから着てて」
「風邪ひくよ。いいから、もう戻ろう」
「ダメ。戻らせないために着せたんだから」
ただの友達だったなら、寒そうな胡桃を見て『戻ろっか』って言えたんだけど。ごめん、今日はまだ帰せないから。
冷たい風が吹き抜けていくのを一層肌で感じながら、俺はやせ我慢をして胡桃に着せた上着のファスナーを閉めた。