イージーラブじゃ愛せない
「……帰らないよ。こんな時間に電車も動いてないし。喉渇いたからちょっと何か飲んでこようとしただけ」
私の答えを聞いて、ジョージの手がゆっくりと離れる。
「そっか。あ、俺取って来るよ。寒いから胡桃は布団入ってなって。何がいい?水?お茶?それともビール飲む?」
ギシリとベッドのスプリングを軋ませ、ジョージの身体が身軽に起き上がる。私の返事を待たずに向かったキッチンで、彼が冷蔵庫を開ける音がした。
「お水がいい。ボトルのままでいいよ」
私の答えに従ってミネラルウォーターのペットボトルを持ったジョージが微笑みかけながら戻ってくる。それを受け取って私は少し顔を俯かせた。
「勝手に帰ったりしないから。アンタちゃんと寝なよ。明日仕事でしょ」
――ジョージは別に眠れなくて起きていた訳じゃない。……私が眠るのを、待っていたんだ。
初めて私がここに泊まった日の朝が忘れられなくて。メモ一枚を残して、ぬくもりの余韻さえ残さずに私が帰ってしまった朝が忘れられなくて。
ジョージは私の隣に腰を降ろすと、肩を抱き寄せながら優しい笑い声をたてた。
「ゴメンね。俺、臆病で」
自嘲気味にさえ聞こえるその“ゴメン”に、私の唇もつられて謝罪を紡ぎそうになる。
ジョージをそんなに臆病にさせてしまった朝を反省したくなってしまって、口を噤んで小さく首を横に振った。