イージーラブじゃ愛せない
「あー、遊びすぎた。手が痛いわ」
帰りの電車の中で、俺の隣に立った胡桃が手首をブラブラとさせる。
あれから夢中で点数を競い合ったオートテニス。胡桃ってば高校時代テニス部だったとかでやたら上手いでやんの。なんとかギリ俺が勝ったけど。
「俺も久々に夢中でラケット振ったわ。明日筋肉痛だな~」
「あれしきの運動で筋肉痛って。あんた見かけによらずじーさんだよね」
「うっそ。絶対胡桃も明日筋肉痛になるって!」
「なりませんー」
「あー言ったね。明日腕痛くてバンテリン貸してって言っても貸さねーかんね」
「うわーなんてセコい上にジジくさい仕返し」
胡桃が口元に手をあててクックックと肩を揺らす。それを見て俺も混んでいる電車で目立たないように、声を押し殺しながら笑った。
「やっぱ、ジョージといると楽しいわ」
手で押さえくぐもった笑い声の合間に、胡桃がそんな一言を零した。
何気なかったけれど。でもそれはメチャクチャ嬉しい一言で。だって、なんのかんの胡桃が俺を褒めたり必要としてくれる言葉を発する事って滅多に無いから。