イージーラブじゃ愛せない
○おかえりハピネス○
○おかえりハピネス○
「ただいまー……」
誰もいない事は分かっていたけれど、一応そう口にしながら玄関のドアを開ける。
案の定、家の中は真っ暗に静まり返っていて、まるっきり私の帰りなど待っていない。
そのままキッチンまで進み電気を点けるも、当然、晩ご飯どころかメモの一枚さえ残されておらず。
「……今日は涼子さんと一緒か……」
壁に掛けられたカレンダーの今日の日付に『PM6:00 山川亭 涼子さん』と書かれているのを見て、私はようやく自分の家族が今家に居ない理由を知った。
『涼子さん』はうちの兄、圭太の婚約者だ。どっかイイとこのお嬢さんらしくて、うちの父も母も『圭太に相応しい』とたいそうに可愛がっている。それはそれはもう、実の娘の私より10倍は。
まあ別に。私に愛情が注がれないのは今に始まった事でも無いのでどうでもいい。大人にまでなって、そんな泣き言をいうほど馬鹿でもないし。
長男ばかりが可愛がられる風潮のこの家に産まれてしまった時から、私は自分の人生をこんなものだと思って生きてきたんだし。
そもそも、虐待だとかが横行してるこの時代に、愛情が希薄だとは言えまともに育ててくれただけありがたい。寝食に困らず大学にまで行かせてくれて。
親を恨んだ事も兄を妬んだ事もない。でも。
「山川亭ってどこだろ。料亭かな。いいなー私懐石食べた事ないや」
もう10年以上前から家族とする食事を美味しいと感じられなくなった事だけは、残念だ。