黄昏の特等席
「おかしいな。紅茶に薬を混ぜておいたのに・・・・・・」
「・・・・・・はい!?」

 グレイスの聞き違いなのかと思った。
 けれど、それは間違いなく、暗い雰囲気から一瞬で別の雰囲気になった。
 自分のティーカップの中はすでに空。飲んでいる間、全く紅茶の違和感に気づかなかった。

「効果が出なかったか・・・・・・」
「・・・・・・何の薬?」
「君がもっと可愛くなる薬を・・・・・・」

 テーブルを叩いて再度同じ質問をすると、素直にどんなことでも話す薬と言った。

「大馬鹿!」
「そんな酷いことを言うことはないだろう?」
「酷いのはどっちよ・・・・・・」

 隣で声をかけてくるエメラルドを見ないで頬を膨らませていると、彼が小さく笑った。

「何・・・・・・?」

 グレイスが顔を向けると、今度はエメラルドが顔を背けて、肩を震わせている。

「何がおかしいの?」
「アクア、私が本気で貴重な紅茶に薬なんて不純物を混ぜると思ったか?」

 ぎろりと睨みつけられて、言葉が詰まった。

「ちょっと待って。それじゃあ・・・・・・」
「ふっ・・・・・・」

 我慢できなくなったのか、怒った顔が崩れて、また笑い出した。

「嘘吐き!」
「本当にしようか?」

 そしたら嘘吐きではないことを彼に平然と言われる。

「今から・・・・・・」
「しなくていいの!」
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