黄昏の特等席
 部屋の外で男の声が聞こえたので布団に入り、目を閉じていると、室内に入ってきた男がじっと見ているのを感じる。
 男が遠ざかり、ドアを閉める音と気配が消えたので、グレイスは再び目を開けた。

「やっぱり起きていたな」
「ひっ!」

 男は部屋から一歩も出ていなくて、ドアの近くで立っている。
 脚だけが見えていて、静かに近づいてくるので、恐怖を感じたグレイスは枕を投げつけて、布団の中で震えた。
 投げつけた枕は男に当たっておらず、さらに距離を縮める。

「そんなに怖がらなくても、何もしない」
「来ないで・・・・・・」

 布団を剥ぎ取ろうとする男に抵抗して、グレイスは彼の顔を見ないように自分の顔を隠す。

「触らないで!」

 危害を加えないことを聞かされても、信じることなんてできない。

「顔を見せてくれないか?」
「嫌・・・・・・」
 
 自分が眠っている間に知らない場所に来ていて、知らない人達が空間にいる。まるで連れ去られたときのようなので、グレイスは男の顔を見ることを激しく嫌がった。
 全然顔を見せようとしないグレイスに後で来ることを告げた男は電気を消して、部屋から出て行った。
 せめて場所だけでも教えてもらうべきだった。今更後悔しても、すでに男はいなくなってしまった。
 そっとドアを開けると誰もいないので、グレイスはその隙に窓から外へ飛び出した。恐怖を感じて、少しでも遠くへ行くために裸足で地面を蹴って走り去った。
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