黄昏の特等席
 屋敷から抜け出したグレイスは知らない街に辿り着いた。
 人が少ないところへ移動して、グレイスは空を見上げた。夕日を眺めていると、いろいろな人達のことを思い出す。どんなに手を伸ばしても、会うことができなくなった大切な存在。

「黄昏なんてなくなってしまえばいいのに・・・・・・」

 誰にも届くことない声で呟いたのに、それは一人の人物に届いていた。

「理由は何だ?」
「なーー」

 振り返る前に頭から布を被せられて、グレイスのそばにいるーー屋敷の部屋で話をした男の姿を見えないようにされた。
 黄昏を嫌う理由を教えるように言われ、そっと口を開いた。

「家に帰る時間だから・・・・・・」
「帰りたくない?」
「・・・・・・・・・・・・」

 そうではない。できることなら、すぐに自分の帰るべきところに帰りたい。
 だけど、自分にはもうそうすることができなくなってしまった。

「帰るところがない・・・・・・」
「だったら・・・・・・」

 力強く握りしめている拳を大きな手で覆い、グレイスの耳に男が顔を近づける。

「自分の帰るところがあったら?」
「・・・・・・ん?」
「自分にとって大切なところ、帰りたいところがあるなら・・・・・・嫌いな時間が好きな時間に変わるのか?」
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