黄昏の特等席
 じんわりと濡れた額に触れようとしたので、グレイスは後ろに下がった。

「触らないで」
「どうしてだ?」

 汗で濡れている額を触られたくないことを言うと、ハンカチをポケットから取り出して拭こうとする。

「拭かなくていいから」
「どうしてそんなに嫌がる?」
「だって・・・・・・」

 エメラルドのハンカチを汚してしまうことをグレイスはしたくない。
 グレイスがエメラルドの手首を掴んでも、彼はそのままグレイスの額や首筋を拭いてくれたので、礼を言った。

「アクア・・・・・・」
「なーー」
 
 エメラルドに腕を引っ張られて、抱きしめられた。
 グレイスの項に手で触れると、そこも汗が流れているので、ハンカチで拭く。

「眠るか?」
「ううん、眠らない・・・・・・」

 夜中だから本当は眠らなくてはいけないのだけれど、悪夢を見てしまった以上、眠ることが怖くなった。

「エメラルドこそ、眠らないの?」
「一人ではな」

 添い寝をしてほしいことを告げられ、グレイスはそれをあっさり却下する。

「添い寝してくれないのか?」
「子どもじゃないのだから・・・・・・」

 エメラルドは甘えるときが何度もあるので、子どもっぽさが感じられる。

「だったら、遊ぶか」
「はい?」

 何をして遊ぶのかと思いきや、エメラルドはポケットの中からトランプを取り出した。
 
「ゲーム?」
「手品だな」
「へぇ・・・・・・」
< 107 / 194 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop