黄昏の特等席
「どうかしたか?」

 過去のことを思い出していたグレイスはエメラルドの声で我に返った。

「な、何でもない!」
「どこが? 何を考えていたんだ?」

 顎に手をかけられそうになり、グレイスは彼から離れた。

「本当に何でもないから」
「そうは見えない」
「ぼんやりしていただけ。ちゃんと集中するから」

 グレイスは埃やゴミで汚れている床の掃除を始め、エメラルドはそれ以上何も言わなかった。
 図書室での仕事が終わり、手を重ねて、腕を伸ばした。

「お疲れ様、アクア」
「お疲れ様・・・・・・」

 図書室に来たときより、綺麗になったので、グレイスは満足する。

「君の部屋、変わったから」
「どういうこと?」

 いきなり言われたので、グレイスは驚いて目を見開いた。
 グレイスの部屋から図書室まで、かなりの距離がある。その大変さを知ったエメラルドはグレイスの移住を移すことにした。
 図書室には複数のドアがあり、そこから新しい部屋へ行くことができる。そうなると、他の人達と会うことはなく、会うのはエメラルドただ一人だ。

「いつの間に・・・・・・」
「そういうことだから」

 前までのグレイスだったら、多くの人達に会う機会が減ったことに、安心と喜びを感じていただろう。
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