黄昏の特等席
引き寄せられる
「ブライス様・・・・・・」
「私がいるのに他の男の名前を呼ぶなんて・・・・・・」

 苛立っている声を拾い、双眸を開ける。

「あれ?」
「アクア・・・・・・」

 グレイスは自分の部屋のベッドで眠っていたことに気づき、慌てて起き上がった。
 すると、全身の力が抜けてバランスを崩したグレイスをエメラルドが支えた。

「ありがとう」
「いや・・・・・・」

 まだ具合が悪いのだから、起き上がらずにベッドに横になるように言われ、そのまま押し倒された。

「具合?」
「そうだ」
「どういうこと?」

 起きたばかりなので、まだ自分の状況を把握していなかった。

「倒れたんだよ。君は・・・・・・」

 溜息交じりに出した声は呆れも含まれていた。

「嘘・・・・・・」
「本当だ」

 仕事の時間に資料を探している途中で倒れてしまったらしい。
 本当はグレイスを気に入りそうな場所へ連れて行きたかったが、それは延期になった。

「食欲は?」
「あまり・・・・・・」

 グレイスは食べ物を求めなかったので、エメラルドに他に何か欲しいものがあるか確認された。

「欲しいもの?」
「ああ。何でもいいよ」

 本を読みたいことを言うと、あっさりと却下された。

「・・・・・・何でもいいことを言った」
「本を読んだら疲れるだろう・・・・・・」

 本を読むことを諦めて、主に会いたいことを言った。それに対しても、エメラルドは首を縦に振ってくれなかった。

「どうして無理なことばかり言うんだ・・・・・・」
「だって会いたいから・・・・・・」

 主に会うことができず、グレイスは落ち込み、布団で顔を隠した。
 エメラルドがグレイスの名前を呼んでいるのが聞こえるものの、それがとても小さい声のように聞こえた。
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