黄昏の特等席
 しかし、ずっと優しくしてくれた屋敷の主や仲良くなった使用人達と会う機会がほとんどなくなり、寂しくなった。

「そんな顔をするな・・・・・・」

 エメラルドに頭を撫でられ、グレイスは申し訳なく思う。グレイスのことを気遣ってくれたのに、態度が悪かったことを反省して、彼に礼を言った。
 荷物をまとめてあり、全部揃っているかどうか、念のために確認をするように言われて、グレイスは確認をしに行く。
 もともとグレイスの荷物はそんなに多くないので、確認をするのに、長時間かからなかった。
 
「揃っていたよ・・・・・・あれ?」

 さっきまでいたエメラルドは別の場所にいた。

「そうか。こっちに座りなさい」

 グレイスの声はちゃんと彼に届いていた。
 エメラルドのところまで行くと、紅茶の香りが漂っている。

「もしかしてこの紅茶、キッチンにあったもの?」
「そうだ」

 この屋敷の主は口数が少なく物静かで、優しい性格の持ち主。
 だけど、紅茶を勝手に持ち出したら、彼だってきっと黙っていないだろう。

「いつかバレるよ」
「心配いらない」

 エメラルドに軽い感じに言われても、それは無理なことだ。
 紅茶の管理だってしっかりされているのに、そこからなくなったことがわかってしまったときのことを考えると、必ずお叱りを受ける。

「誰もいなかったの?」
「いや、いたさ」
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