黄昏の特等席
 屋敷に戻り、二人と別れ、図書室へ向かうと、エメラルドが外国語で書かれた本を読んでいた。

「アクア」
「読書の邪魔をしちゃった?」
「いや、外に出ていたんだな」

 グレイスの手はひんやりと冷たくなっていて、その手を彼は触れて、その本を閉じた。
 どこへ行っていたのか話を聞きたがっているので、グレイスは今日の出来事をエメラルドに話した。

「楽しかったか?」
「うん。楽しかった」

 短い時間だったけれど、彼女達と同じ時間を過ごすことができて、満足した。
 ヴァネッサの話とエメラルドの話をしたことは本人に伝える気がないので避けて、喫茶店の場所とか、食べたものについても話した。
 自分だけ美味しいものを食べに行ったことと自分意外の人物と行ったことがどうやら不満を抱いたようだ。

「せっかくこうして会えたのだから、私ともあそ・・・・・・いや、相手をしてくれ」
「あなたね・・・・・・」

 エメラルドは確実に遊んでほしいことを言いかけた。
 遊ぶことも相手をしないことも言うと、エメラルドがグレイスの両手を引いて後ろに下がった。グレイスが何度手を振っても、胸を押し返しても、彼の手は離れなかった。
 着いた先はソファの前で、彼は強い力でグレイスの両手を引っ張った。大きくバランスを崩したグレイスは彼の上に全体重を預けることになった。

「何を考えているのよ・・・・・・」
「さっきも言った。相手をしてくれ」
< 135 / 194 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop