黄昏の特等席
目の前にあった彼の顔は気づけばグレイスの顔の横にあり、彼の舌先が耳に触れる。身の危険を感じて逃げようとすると、耳の奥まで舌を入れられた。
悲鳴を上げて必死にもがくグレイスの両手を押さえ、とても楽しそうに笑う男が細い首筋に歯を立てる。グレイスはそれに我慢ならず、ぞくりと身体を震わせた。
涙が今にも溢れ出してしまいそうなくらい、目が潤んでいるグレイスを見下ろしている。
大人しくするように耳元で言われ、グレイスの耳朶を舐めてくる。逃げる気力を少しずつ奪われ、求めるような眼差しに変わる。
弱い拒絶は嗜虐心を煽るものでしかなく、逆にエメラルドに火をつけてしまった。視界が明るくなったので、ようやく終わったのだと気を緩めていると、次は左耳を上下に舐めてきて、さっきよりも大きく震えた。
「君の本当の名前を教えてくれ」
「私・・・・・・」
返事をすることができずにいると、彼は溜息を吐いた。
「返事ができない、か・・・・・・」
「あの・・・・・・」
グレイスの小さな声はエメラルドに届かず、その声を消される。
「だとしたら、君は誰なんだ?」
自分の本当の名前ーーグレイス=キーフを名乗ることができない。この屋敷の主ですら、本当の名前を知らない。
無言のままでいると、視線を合わせるように両頬に手を添えて、動かないように固定された。頑なに自分の名前を教えようとしないグレイスの頬に指で触れる。
悲鳴を上げて必死にもがくグレイスの両手を押さえ、とても楽しそうに笑う男が細い首筋に歯を立てる。グレイスはそれに我慢ならず、ぞくりと身体を震わせた。
涙が今にも溢れ出してしまいそうなくらい、目が潤んでいるグレイスを見下ろしている。
大人しくするように耳元で言われ、グレイスの耳朶を舐めてくる。逃げる気力を少しずつ奪われ、求めるような眼差しに変わる。
弱い拒絶は嗜虐心を煽るものでしかなく、逆にエメラルドに火をつけてしまった。視界が明るくなったので、ようやく終わったのだと気を緩めていると、次は左耳を上下に舐めてきて、さっきよりも大きく震えた。
「君の本当の名前を教えてくれ」
「私・・・・・・」
返事をすることができずにいると、彼は溜息を吐いた。
「返事ができない、か・・・・・・」
「あの・・・・・・」
グレイスの小さな声はエメラルドに届かず、その声を消される。
「だとしたら、君は誰なんだ?」
自分の本当の名前ーーグレイス=キーフを名乗ることができない。この屋敷の主ですら、本当の名前を知らない。
無言のままでいると、視線を合わせるように両頬に手を添えて、動かないように固定された。頑なに自分の名前を教えようとしないグレイスの頬に指で触れる。