黄昏の特等席
「君は自分の立場を危うくすることが好きなんだな・・・・・・」

 それに反応して、グレイスの顔に焦りが出る。
 偽名を貫き通さなくてはいけなかったのに、グレイスはそれをしなかった。

「わざわざ偽名を名乗って、この屋敷に住みつくようになったんだ」

 誰もが怪しみ、正体、何の目的なのか、その他のことも調べられる。
 グレイスのことを何もかも知られ、無事で済むとは思えない。

「駄目じゃないか、アクアマリン。本当の名前であることをはっきりと言い続けないと」
「あっ・・・・・・」

 エメラルドはグレイスの手首に紅い印を刻みつけていく。
 彼の頭を手で押さえようとしても、それは無意味な行動でしかなかった。

「おねが・・・・・・」
「ん?」

 それ以上しないでほしいことを頼んでも、彼の手も唇も動いたまま。首を激しく振ると、首筋に強く噛みつかれてしまい、痛みで身を反らした。
 どうしてこんなことになってしまったのだろう。自分がアクアマリンであることを言い続けていたら、こんなことにならなかったのかもしれない。
 この屋敷に足を踏み入れるようになってから、何年も多くの人達に嘘を吐き、最も近い存在のエメラルドに嘘を吐き続けるのは嫌な気分になる。

「私はこれから君の大切なものを奪う」
 
 それが何かは服を乱そうとしているので、すぐにわかった。
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