黄昏の特等席
 その後に自分が恋に溺れたりしないことを彼に言ったが、その言葉には何の力もなかった。自分でも知らない間にエメラルドに惹かれていたから。
 あんなに恋愛が嫌で仕方がなかったのに、これ以上自分の気持ちに嘘を吐くことができない。

「エメラルド、お願い! やめて・・・・・・」

 違う。全然望んでいない。彼のことが好きだからこそ、こんな形で結ばれたくない。
 我慢できなくて涙を流すグレイスを見たエメラルドは驚いて目を見開き、柔らかく微笑んだ。
 そんな彼に気づかず涙を流し続けると、その涙を唇で吸われ、このときようやくグレイスは彼の顔を見る。

「エメラルド?」
「・・・・・・せめて、私にだけ教えてくれないか?」

 それでもグレイスは首を縦に振ることも、声を出すこともしない。

「誰にも言わない。私と君だけの秘密だ」
「・・・・・・本当に?」

 嘘でないかどうか、エメラルドの顔を見て、反応を見逃さないように目を凝らす。

「誰にも言ったりしない?」
「誰にも言わない」

 まっすぐな瞳で言われて、グレイスは唇を震わせながら、声を出す。

「私はーー」

 このとき初めて自分の本当の名前を教えた。それを聞いたエメラルドは一瞬驚き、それを笑顔で消し去った。

「グレイス=キーフ・・・・・・」

 エメラルドは隣で眠るグレイスの柔らかな髪を撫でた。
 それからグレイスの唇にキスを落として、どこにも逃げられないように強く抱きしめた。
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