黄昏の特等席
 グレイスの肩に手を置き、そのまま顔を近づけて口づけをしようとしてきたので、エメラルドの目的を悟ったグレイスはぎゅっと目を瞑った。
 しかしグレイスが考えていたところとは違っていて、エメラルドが落としたところは頬で、触れたと思ったらすぐに離れた。

「肩に力が入っている」
「本当だ・・・・・・」

 上がっていた肩の力を抜くと、一気に下がったので、エメラルドに苦笑いをした。

「頬だったんだね・・・・・・」
「どこにしてほしかった?」

 不満そうな声を聞いたエメラルドはグレイスの唇をじっと見ている。そのことに気づいて、自分の唇を手で隠した。

「私もそこにしたいんだが、手が邪魔をしているな・・・・・・」
「私は・・・・・・!」

 唇にキスをしてほしいことを言っていないことを言おうとする前に、エメラルドはグレイスの手にもキスをした。
 手をやんわりと掴んで無防備になった唇に自分のものを寄せてきた。グレイスが顔を赤くしながら触れるのを待っていると、それはいつまで経っても来ない。

「・・・・・・何を笑っているの?」
「もう目を開けてしまったか・・・・・・・」

 キスを待ち望んでいるグレイスをもっと見たくて、エメラルドはニヤニヤと腹立つ笑みを浮かべていた。
 エメラルドはグレイスの背中に回している手の力を込めた。さらに眉を寄せているグレイスに微笑みかけながら。
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