黄昏の特等席
「さて、次は唇に・・・・・・」
「しないからね」
「こういうときは黙って目を閉じるものだ」

 グレイスがもっと積極的にエメラルドに触れてくれたら、嬉しく思う。その反面、照れているところも可愛らしいので、笑顔になる。

「何笑って・・・・・・やっぱり言わないで!」
「話を聞きたくないのか?」

 どうして彼が笑っているのか知るより、別のことを知りたいので、そっちの話をしてもらいたい。

「昨日、何をしていたの?」

 昨日エメラルドが用事で出て行ってから一度も戻らなかったので、何かトラブルにでも巻き込まれたのか心配すると、彼はグレイスの髪を撫でた。

「トラブルではない」
「だったら・・・・・・」
「ちょっと別の仕事を頼まれたからな」

 エメラルドは図書室に戻ることができず、その仕事で時間を費やした。

「寂しかったのか?」
「いえ、そうじゃない・・・・・・」

 否定するグレイスに対し、エメラルドは会うことができなかったので、その寂しさをぶつけるように抱きしめている。

「・・・・・・昨日」
「ん?」
「ちゃんと食事をした?」
「一応な・・・・・・」

 曖昧な言い方に首を傾げると、エメラルドは何を食べたのかきちんと教えてくれた。

「だけど、味気なかった・・・・・・」
「あなたも?」
「おや? 君もだったんだな。何を食べたんだ?」
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