黄昏の特等席
 もう少しこうしていたいことを言われて、グレイスはそれに従いそうになる。
 長時間抱きしめられると心臓が止まりそうになることを告げると、彼は口元を歪めて囁く。

「抱きしめられて心臓を止められるなら、見てみたいものだな」
「意地悪しないで」

 心臓が止まってしまうのは病気や怪我が主だが、恥ずかしさで止めた者はいない。
 だから、エメラルドはグレイスがそんなことをすることができるのであれば、それを見せてほしいのだ。

「死因は私か・・・・・・」

 嬉しそうに笑っているエメラルドを睨んでも、何にもならないので、再び本を読もうとする。
 伸ばした手をエメラルドに掴まれて、手の甲を撫でている。
 
「本を読みたいの」
「私は君に触れていたい」

 それに本を読むのは後でもできることを言ってきたので、それはスキンシップも同じだと言い返した。

「今は駄目」
「じゃあ、後だったらいいのか?」

 反論できなくなったグレイスに、エメラルドは再度同じことを言って、追いつめる。

「いいんだな?」
「今も後も駄目」

 諦めるように促すと、エメラルドはグレイスからたまには触れてほしいと強請られた。
 自分のことをからかっているのだと思ったグレイスは彼の頬を軽く抓った。

「触れ方なら、普段から教えているだろう・・・・・・」
「触れてほしいと言ったのはあなただよ」

 エメラルドは自分がしてほしいことを細かく教えてきて、それを聞きながら、グレイスは顔を真っ赤にした。
 それだけ彼が求めていることはグレイスにとって、刺激的なことだから。

「あんまり構ってくれないのなら、どこかへ行くかもしれないぞ?」
「ご自由にどうぞ」

 グレイスが余裕の表情を見せると、エメラルドも挑発するような笑みを浮かべた。
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