黄昏の特等席
 仕事が終わってから、グレイスは自分の部屋で腕を軽く伸ばした。数分もしない頃、ノックの音が鳴り響いたので、ドアに視線を向ける。
 ドアを開けると部屋の外にはエメラルドが立っていて、グレイスは彼を中に入れる。

「どうしたの?」
「顔を見たくなったからな」

 さっきまで一緒にいたのに、少し時間が経っただけで会いに来るとは思わなかった。

「それと・・・・・・」
「何?」

 顔を上げると、エメラルドはグレイスの背後を見ている。

「実は・・・・・・万年筆をなくしてしまってな。見かけなかったか?」
「見ていない。ちょっと待って」

 念のために確認しようと、テーブルの上やベッドの下などを見てみると、青い万年筆がシーツで隠れていた。

「あの、これのこと?」
「そうだ。助かった」

 どうしてこんなところに転がっていたのか考えると、その答えをエメラルドが言った。
 二日前にエメラルドは今日と同じように部屋に来ていて、そのときグレイスが勉強でわからなかったところを彼が教えてくれた。
 最初は黒い万年筆を使っていたものの、それを落として壊してしまったため、代わりに青い万年筆を使った。

「この万年筆は君から離れたくないから、隠れていたんだな」

 まるで万年筆に感情があるような言い方をする。
 
「君の匂いが染みついているな・・・・・・」
「く、臭い?」
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