黄昏の特等席
 恐る恐る訊くと、エメラルドはケラケラ笑った。

「まさか」
「・・・・・・そう?」

 会話が途切れて沈黙ができたので、それを破るために黒い万年筆を気に入っていたのか、質問してみた。

「そうだな。書きやすかったな」
「やっぱり・・・・・・」

 その万年筆を常に持っていたので、エメラルドが気に入っていたことに気づいていた。

「同じものは持っていないのよね?」
「そうだな。もうしばらく使えると思ったのにな・・・・・・」

 エメラルドは残念そうに溜息を零している。
 どこで買ったのか、前にエメラルドに教えてもらっていたので、グレイスは彼に黒い万年筆を買って、プレゼントすることを考えた。
 次の日の昼休みを利用すべきか、休日に買いに行くべきか悩んでいると、額を指で突かれた。

「な、何?」
「また眉間に皺が寄っているから」
「あぁ・・・・・・」

 エメラルドが目の前にいるのに、グレイスはお構いなしに彼のことを考えてしまっていた。

「それで?」
「はい?」
「何を考えていたのかな?」

 グレイスが隠そうとする前にエメラルドが先回りして、素直に話さない場合、罰を与えると脅しをかけてくる。

「・・・・・・あなたのことだよ」
「私?」
「そうだよ」

 万年筆のことを言ってしまっては何もかも台無しになるので、それだけは言わない。
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