黄昏の特等席
「具体的にどんなことだ?」
「内緒」

 言わずにいると、エメラルドがグレイスの唇を指で撫でてきたので、抵抗して逃げる。

「私のことを考えていたのだろう?」
「さっき言ったよ」
「だったら・・・・・・」

 全部教えてくれても別に構わないことを言ってきたが、それとこれとは話が別。

「そこまで言われたら気になるな」
「あなたね・・・・・・」

 何もグレイスが自ら言ったのではない。エメラルドが脅しをかけてくるから言っただけだ。

「もう知らない。忘れた」
「嘘を吐くのは良くないぞ」

 グレイスより嘘を吐いているこの男にだけは言われたくない。

「教えるつもりはありません」
「私にだけか?」

 他の誰にも教えないことを言うと、彼はようやく諦めてくれた。

「あなたは本当に知りたがりね・・・・・・」

 溜息混じりに呟くと、エメラルドが急に声を上げる。

「・・・・・・そうだ」
「どうしたの?」

 突然声を上げたエメラルドに驚きながら、グレイスは胸に手で押さえている。

「ふと、思ったんだが・・・・・・」
「うん」
「君のように名前が複数ある場合、どちらで呼べばいいんだろうな」

 何を言い出すのかと思えば、話が大きく変わった。
 グレイスはそのことを指摘することなく、その話を続ける。

「どちらがいい?」
「好きな名前で呼べばいいよ」
「ふむ・・・・・・」
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